2012年 09月 22日
オーディオとの付き合い方は人様々で、 どれが正しいというわけでもなく、 しかし、そうであるから、 それぞれのオーディオが、それぞれの自分を表現する。 嫌と言おうが何と言おうが、 自分が作り出したシステムには、その音には、自分が表現されてしまう。 どんな鳴らし方がその人にとって幸せなのか、 それも人それぞれで、他人がとやかく言う筋合いは無い。 しかし、 オーディオというものは、そこに力を尽くせば尽くすほど応えてくれるもの。 それが解るから、後先考えない者はその構築に全力を傾けたりする。 そして、もはやそれが単なる趣味を超え、業のような様相を呈してきたりする。 最近になって格闘は少しは落ち着いてきたものの、 私ももちろん酷い状態は数多く経験してきた。 システムの構築に疲れ果て、どうしても思うように鳴らない自分のシステムを見上げながらその前で力尽きて眠り込んでしまったことも一度や二度ではない。 気がつけば、朝日にぼんやりと照らされたホーンは、相変わらず知らん振りしていた。 そんな経験を重ね、 しかしそれでもなんとか前進して構築されたそのオーディオは、 既にそれは、 異形の相をみせる。 そうなれば、もはや装置は機械ではなく、 自分の分身、影のような存在であり、 その音のあれこれに、満足と不満、 愛おしさと憎しみさえおり混じった感情を抱く。 先日、仲間とSさんのシステムを聴かせてもらった。 私などでも15Aホーンは夢のホーンだった。 あのホーンを知ったのは、 やっぱりステレオサウンド誌の中の写真だったと思う。 それは池田圭氏のあの異様なリスニングルームで、 そのたった一枚の写真は私の想像をかき立てた。 オーディオを知れば知るほどウエスタンへの興味は増すばかりだったけれど、 そのような物が手に入る道理は無いことは、あまりにも若かった私にも理解できた。 何十年も経ち、私は愛知県のある場所で15Aホーンを聞くことができた。 そこは個人宅というのか、お店と言って良いのかわからないようなところだったけれど、 私のあるかなしかの知識でも、理想的だと思える機材をもって鳴らされていた。 初めて聞いた15Aは、あまりにも美しく、ピュアな響きを持っていた。 本当に、びっくりするほど美しかった。 しかし、そのあまりの美しさのせいか、 聴かせてもらったヴェルディは、 何故だか現実離れしたよそよそしい音楽に聴こえた。 そんな経験もあったのだが、 それでもSさんの15Aは聞いてみたいと思った。 それは、Sさんがクラシック、特にオーケストラを好んで聴かれることをしっていたからだ。 誰が何と言おうと、オーケストラの再生というものが、最もむつかしいと思う。 ラジオ的に、あるいはテレビ的に鳴らすなら、そこそこの機器を繋いで鳴らせば可能だろう。 しかし、あのコンサートホールでのオーケストラを確かに再生するのは、 考えれば考えるほど不可能に思えてくる。 それ以前にオーケストラの録音自体が不可能なものへの挑戦のように思える。 それだから、クラシック好き、オーケストラ好きは、遠くからオーケストラを眺めるような再生で我慢し、 それがオーケストラの理想的な再生だと言い訳をする。 確かにそれは一つの聴き方だろう。 しかし、オーケストラを百人のソリストの集合体だと考えた時、 そのような聴き方を望んだ時、 求めるべきオーディオは一変する。 たとえ使っている機器が同じでも、 その人の聴き方は、その音に現れる。 まさしく赤裸々に。 だから、 自分のオーディオの音を人様に聞いてもらうなんて、 実はとっても恥ずかしいことではあるんだ。 Sさんの部屋は明るかった。 変なことを言い出すようだが、 私の第一印象は明るいことだった。 Sさんは、スポーツも、国際大会に出場されるほどのスポーツマンで、 私などとは違って人間的に非常に健全で理想的でいらっしゃる。 当然、お部屋もそうであって当然なのだが、 私はいつものようになんだか思い込んでいて、 こんなに明るいお部屋だとは想像もしていなかった。 明るいお部屋に15Aホーンが存在することが、 なんだか不思議な気がして、 最初は落ち着かなかった。 Sさんは、先ずビバルディのファゴット協奏曲をかけてくれた。 フィリップス盤で、イムジチだったか。 実に見事に鳴る。 しかし驚いた。 当たり前なのだが、以前聞いた15Aホーンとは全く違う鳴り方をした。 弦が弦の響きを持っていた。 ファゴット等の木管楽器や金管が上手く鳴るのは当然なんだ。 問題は、どうしても弦。 クラシックを聴く人とそれほど聴かない人との最も大きな違いはやはり弦なんだ。 弦の響きを聞けば、その装置の持ち主がどの程度クラシックを好きなのかが判ってしまう。 ホーンタイプのスピーカーは、弦が苦手だとよく言われる。 それはある意味正しいと思うが、きちんと鳴らしてやれば、 その他のタイプではどうしても表現できないニュアンスさえ再生してくれる。 タンノイだってホーンなんだ。 (タンノイで酷い弦を聞いている人が多いのも事実だけどね) ソフトドームが弦の再生に優れるなんていう人は、 ある意味正しいが、努力不足だな。 見事なビバルディだった。 しかし、負けず嫌いの私は、 いやいやこれはフィリップスのレコードだ。 上手く鳴っても当然だと自分に言い聞かせて動揺を抑えた。 次にSさんが聴かせてくれたのは、 なんと、 カラヤン・ベルリンフィルのベートーベン田園。 もちろんグラモフォン盤。 Sさんがチェリビダッケとムラビンスキーに心酔していることは以前から聞いていた。 チェリビダッケを聴く人がカラヤンのレコードをかけてくれるとは思ってもいなかった。 Sさんの人柄を見たような気持ちになって、なんだか嬉しくなった。 子供っぽいクラシックファンは、XXXは素晴らしいが、XXXは最低だなんてことを良く言う。 私がまさにそれで、最近までカラヤンの演奏は、完全に毛嫌いしていた。 Sさんはそんなことはなく、きちんとご自身で聴いて判断していらっしゃる。 これは実はその装置にも言える。 世評で最も素晴らしいと言われるアンプは聞いた上で選択せず、 素直にご自身が良いと判断されたものを使っていらっしゃる。 この姿勢はなかなか出来るものじゃない。 Sさんのオーケストラは、完全に調和していた。 驚くべき再生だった。 私だって、人様並みにはオーディオに力を尽くして取り組んで来たから、 その装置の成り立ちを知れば、ある程度の再生具合は予想できる。 しかし、 これは15Aホーンが凄いのでも555が凄いのでもないんだ。 もちろんそれらは素晴らしいんだけど、 それを使って、既存の鳴らし方を超えて、ここまで鳴らしたSさん自身の音楽が素晴らしいんだ。 あまりにも存在感がある15Aだけど、 これはもはやウエスタンではなく、Sさん自身、その分身にまで昇華したものなんだ。 面白いことに、 私が持っていった2枚のCDは、さっぱりだった。 酷い音がしたわけじゃないが、 装置に完全に無視された鳴り方をした。 いじわるでもしてくれればまだ救われようもあるが、 全く一瞥もくれなかった。 考えてみれば当然の話なんだ。 このSさんのシステムはSさんがSさんの音楽を聴くためにのみ存在している。 そんなところにのこのこCDを持って行ったって、鳴るわけが無い。 しかし、これはSさんとそのシステムのもはや分かちがたい関係を示しているのであって、 私自身はすがすがしかった。 驚くべきことに、私が聞いた段階では電圧を間違えた状態だったらしい。 もう一度聞かせてもらおうと思う。 今度はSさんのムラビンスキーをなんとしても聴きたい。
by johannes30w
| 2012-09-22 02:39
| オーディオと音楽
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